飲食店のHACCP義務化、具体的に何をしたらよいのか?そもそもHACCPとは?衛生管理計画と衛生管理記録の仕方を含めて分かりやすく解説します。
目次
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3-1.大きく2種類の衛生管理をする
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3-3.失敗したらどうするかも決めておく
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3-4.管理は「衛生管理記録」に残す
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1.飲食店のHACCP義務化とは?
2020年6月に改正食品衛生法が施行され、飲食店ではHACCP(ハサップ)の実施が義務化されました。
そもそもHACCPとは何か?
HACCPとは、Hazard Analysis and Critical Control Point(危害分析に基づく重要管理点)の略で、従来主に食品工場の製造工程などで衛生管理の手法として導入されてきたものです。
飲食店でHACCPが義務化されたということは、このHACCPの考え方に基づいた衛生管理を飲食店でも行うことが必要になったということです。
2.HACCP義務化で消費者が飲食店に求める衛生基準もますます高くなる
HACCPに基づいた衛生管理が法令で義務化され、国内全体で食への衛生意識が底上げされる中で、今後は消費者が飲食店に求める衛生基準もますます高くなっていくことでしょう。食中毒事故の発生についてはいうまでもありませんが、
「ゴキブリが客席にいた」
「ハエが店内にたくさん飛んでいる」
「ねずみの糞が落ちている」
「店内が清潔でない」
「従業員の身だしなみが不衛生で気になる」
「汚れた厨房が垣間見えて気になる」
などといった状況は、お店を訪れる消費者にとってはますます重大なチェックポイントとなっていくことが考えられます。
「義務だからやらなければならない」という視点にとどまらず、その先を見越すと衛生管理が店舗経営と密接につながっていることが浮かび上がってきます。飲食店事業主の方は、自分自身を守るためにもしっかりとHACCPを理解して実施していくことが大切です。
3.具体的に何をどのように管理すれば良いのか?
3-1.大きく2種類の衛生管理をする
HACCPに沿った衛生管理とは、具体的には大きく2種類を行います。
HACCPに沿った衛生管理は大きく2種類
- (1)一般衛生管理(HACCPの基礎となる調理環境の衛生管理)
- (2)重要管理ポイントの管理(主に調理工程の衛生管理)
2種類の管理について、わかりやすく具体的な例を挙げてみましょう。
(1)一般衛生管理(HACCPの基礎となる調理環境の衛生管理)
- ・従業員の入室確認・健康確認
- 体調、服装、髪、傷はどうか?
- ・原材料の受入確認
- 外装汚損、異臭はないか?
納入温度は適切か?
使用期限・保存方法は問題ないか? - ・施設の点検
- 床や内壁、作業台、流しは清潔か?
窓、出入口は開放されていないか?
ネズミやゴキブリなど病原菌媒介や異物混入につながる有害生物は発生していないか?
廃棄物置場の清掃を行ったか?
排水の処理状況は正常か? - ・冷蔵、冷凍庫の温度確認
- 故障なく正常に温度が保たれているか?
- ・調理機器点検、清掃・殺菌確認
- 異常音はないか?
油漏れはないか?
清掃・殺菌を行ったか? - ・調理器具の洗浄確認
- 調理器具の洗浄・消毒はされているか?
- ・トイレの清掃確認
- 清掃を行っているか?
- ・手洗い
- 調理前、トイレ後の手洗いはされているか?
(2)重要管理ポイントの管理(主に調理工程の衛生管理)
重要管理ポイントとは、調理工程など、一般衛生管理以外の範囲でさらに徹底管理すべき重要なポイントをいいます。何が重要管理ポイントとなるかは業態やメニューによって異なってきますが、ここでは、加熱工程を重要管理ポイントに定めた場合を例にお話します。
<加熱工程の管理を重要管理ポイントに定めた場合の例>
加熱工程の管理は、①「非加熱のまま食べる食品」「加熱してすぐ食べる食品」「加熱と冷却を繰り返す食品」の3つに分類し、②それぞれの加熱温度・時間、冷却温度・時間を管理します。
①メニューを3つに分類する
- 分類1「非加熱のまま食べる食品」
(例 生野菜サラダ、薬味ネギ) - 分類2「加熱してすぐ食べる食品」
(例 ステーキ、焼き鳥、天ぷら) - 分類3「加熱と冷却を繰り返す食品」
(例 スープ、ソースなど加熱後冷まして提供、または再加熱して提供する食品)
②分類ごとに温度と時間を管理
- ・非加熱のまま食べる食品
- 提供までの冷却温度・時間は基準を満たしているか?
交差汚染防止(例 生肉などとの接触防止) - ・加熱してすぐ食べる食品
- 加熱温度・時間は十分か?
- ・加熱と冷却を繰り返す食品
- 加熱温度・時間は十分か?
冷却温度・時間は基準を満たしているか?(急冷しないと微生物が増殖してしまう食材)
上記の(1)一般衛生管理と(2)重要管理ポイントの管理の計画を記したものを「衛生管理計画」といい、HACCP義務化により、これを作成することが必須となりました。
決められた書式は特にありませんが、どのような形式で作成するとよいかという参考に2つ見本をご紹介します。
▼衛生管理計画の見本
・厚生労働省が作成した飲食店向けの衛生管理計画の見本(P.28を参照)
・パン業界の団体が作成したリテールベーカリー向けの衛生管理計画の見本(小規模所業者用はP.33~34を参照、中規模以上の事業者用はP.39~42を参照)
3-2.どうやって管理すれば良いのか?~基準と手順を決める~
何を管理すれば良いのかがわかったところで、どうやって管理すれば良いのかを厚生労働省の手引書にもとづいてご紹介します。
まずは、メニューごとの加熱温度・時間、冷却温度・時間の基準を決め、その条件を満たすための調理方法を確認します。
<温度・時間の基準を決め、調理方法を確認(例)>
- 「〇〇〇(メニュー名)」※加熱してすぐ食べる食品の例
- 【基準温度・時間】85℃~90℃で90秒間中心部分を加熱する。
【調理方法】コンロの火力を強火にし、決まったフライパンで〇〇分加熱すると中心部分の基準温度・時間を達成できる。 - 「△△△(メニュー名)」※非加熱のまま食べる食品の例
- 【基準温度・時間】提供まで30分以上要する場合は提供まで10℃以下で保存する。
- 「□□□(メニュー名)」※加熱後急冷が必要な食品の例
- 【基準温度・時間】粗熱を取るときには大鍋は小分けにして30分以内に20℃以下、または60分以内に10℃以下に冷却する。
3-3.失敗したらどうするかも決めておく
食品を決まった温度・時間の基準通りに調理できなかったときにどうするかをあらかじめ決めておくことも必要です。
加熱してすぐ食べる食品の場合、再度加熱するのか、廃棄するのか。加熱後急冷が必要な食品の冷却に基準より時間がかかってしまったときは廃棄するのか。あらかじめ決めておきましょう。
3-4.管理は「衛生管理記録」に残す
日々管理していることは、日々記録に残すことが重要です。管理していることを記録に残すことで、従業員全員がもれなく適切に衛生管理を実施しているかどうかチェックすることができます。
また、万が一食中毒発生原因の疑いを掛けられた際に、日ごろ自分たちが適切に衛生管理を行っていることの証明になります。
衛生管理記録は決められた書式は特にありませんが、どのような形式で作成するとよいかという参考に2つ見本をご紹介します。
▼衛生管理記録の見本
・厚生労働省が作成した飲食店向けの衛生管理記録の見本(P.30を参照)
・パン業界の団体が作成したリテールベーカリー向けの衛生管理記録の見本(小規模所業者用はP.35~38を参照、中規模以上の事業者用はP.43~45を参照、より詳細な項目別記録表は巻末参考資料P.7~19を参照)
4.ネズミ・害虫対策の基準は?~法令に基づく5つのポイント~
改正食品衛生法に付随する厚生労働省令では、上記にまとめたようなHACCPに沿った衛生管理の基準の他、一般衛生管理の基準も示されています。ここでは、新しい食品衛生法が定める「ネズミ・害虫対策」の5つのポイントをご紹介します。
食品衛生法による「ネズミ・害虫対策」5つのポイント
- ポイント1.ネズミ・害虫が発生していないかを定期的に調査し、駆除する
- ポイント2.IPM(総合的有害生物管理)による対策は専門事業者に依頼する
- ポイント3.ネズミ・害虫対策は実施記録をとり、保管する
- ポイント4.ネズミ・害虫が侵入・繁殖しない施設環境を作る
- ポイント5.駆除剤やネズミ・害虫による食品への汚染を防止する
▼5つのポイントについて詳しくはこちらをご覧ください。
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